アニメ制作をしていた人の話を、
CGコースの学生諸君といっしょに聴く機会がありました。
80年代に撮影や制作進行などをしていたとのこと。
動画を描くアニメーターとはまた違った視点で、
フルアナログ時代の制作現場話を聞かせてもらいました。
プロの世界には遠く及びませんが、
実は私も学生時代、アニメ作りに参加したことがあります。
これは、とてつもなく手間がかかる作業でした。
紙の動画用紙にえんぴつで動画を描いてから、
セルの上にロットリングペンで清書し、裏から着色。
これが、上映時間1秒につき9枚分必要です。
これだけでもうんざりする作業なんですが、
撮影がまたたいへんなのです。
当時の自主製作アニメは、8ミリカメラを使っていました。
三脚で下向きに固定し、照明を左右にセットして撮影台を作り、
秒あたり18コマ送りに設定して、1枚を3コマずつのコマ撮りします。
ただこの撮影台は、単純ではありません。
実際には、台を床に直に置き、その横に机を積み上げてやぐらを組み、
その上に三脚をセットするのです。
こんな手間をかけるのは、被写体との距離を稼ぐためです。
カメラと撮影台の距離が近いと、
画面の周辺部分に歪みが出たりピントが甘くなったりしてしまいます。
そこでレンズの望遠側を使い、可能な限り距離をとって撮影するわけです。
ただ、このやり方は単に準備が面倒なだけではありません。
フレームあわせのためにはファインダーを覗き込む必要がありますが、
何しろ不安定な机の上なので、動くとずれてしまいます。
結局、撮影担当は、確実に一晩は徹夜になる撮影時間の間、
ずっと机の上ですごす羽目になってしまうのです。
今、アニメを作るのは、夢のように楽になっています。
動画はスキャナで取り込めばすぐに動かして視られます。
FLASHを使えば、必要な動画枚数も格段に節約できます。
セルもいりませんし、トレスも彩色もだんぜん楽で、
モーションすら簡単に付けられます。
そして撮影なんてものは、プロセス自体が存在しません。
では、そうして楽になった分をどこに回しているんでしょうか。
多くの学生作品を観ると、
どうも「どこにも回していない」感じがするのです。
“ソフトなり”で作ったデータを“ハードなり”で出力して、
「はーい、できちゃいましたっ!」って見せてくるだけ。
コンピュータを使ったワークはすぐに結果を見られるため、
試行錯誤の手間が、劇的に軽くなっています。
8ミリフィルムの時代は、現像してみるまで解りませんでした。
でも、現像してみてから失敗に気づいても、もう手遅れです。
そのため、人がどう歩いているのか、風で服はどうなびくのか、
そんなことを必死になって観察し、考え、実験していました。
今、同じだけの、観察・思考・実験をつぎ込んで作品作りを行えば、
短期間で高いクオリティに到達できるでしょう。
第一作から、作品数本分の経験を注ぎ込むことができるのですから。
しかし、「パソコンがこう出力してきたんだからしょうがないよ」
みたいなことを思っていたのでは、それはありません。
技術の進歩で節約できるようになった時間を、どう使うのかは、
いわば「配当をどこに回すのか」ということです。
カラオケやゲーセンに行く時間に回すのもいいのですが、
作品規模や品質感の向上に使うということが発想すらできない人は、
志望を変えた方がいいかもしれません。
(傭兵隊長)